この図書館の中で、最も具体的な実名事例が揃っている領域。 進め方・ガバナンス・数字・つまずいた点まで公開されている。
LIXIL — 現場に作らせる型(確度A)
Google Workspace 公式事例。推進は Digital 部門(三浦葵氏、稲木柚香氏)。
広げ方の順序
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2021年春 | Digital 部門内の事務スタッフで試験運用 |
| 2021年6月 | ワクチン職域接種の予約アプリを開発して実績を作る |
| その後 | 社内有志**約250名を「チャンピオン」**と命名し、開発・テスト・普及を担当させる |
| 同時期 | 役員全員に「夏休みの宿題」として自分でアプリを開発させた |
いきなり全社に配っていない。 事務スタッフ → 実績になるアプリ1本 → 有志250名 → 全社、と段を踏んでいる。「役員に宿題」は経営層の理解を得る方法としてそのまま真似できる。
ガバナンス — ここが最も参考になる
野放しにせず、3つの仕掛けを入れている。
- 機能制限 — 「複雑な機能についてはあらかじめ使えないようにしました」。リスクのある機能を最初から触れなくする
- 開発は自由、本番運用は申請制 — 誰でも作ってよいが、本番で使うには Digital 部門への申請と審査が要る。通ったものだけが「オフィシャルアプリ」として本番環境に入る
- 年1回の棚卸し — 利用実績のないアプリを削除する(2024年は約10%を削除)
数字
| チャンピオン250名の時点 | アプリ 500点以上 |
| 全社展開後 わずか3か月 | 10,000点超 |
| うちオフィシャルアプリ | 3,000点超 |
10,000点のうち本番は3,000点。 7割は作られたが本番に上がっていない。これは失敗ではなく、上の仕掛け2が効いている状態と読める。
つまずいた点
- 導入初期は「参考になる教材がほとんどなく、AppSheet も英語ベースだったため、かなり不安があった」
- 大規模展開時に「これを管理しきれるのか不安」
- 開発者の異動・退職によるブラックボックス化 ← 内製化の宿命的な問題
船井総研グループ — 顧客先で作る型(確度A)
事例カタログに深掘り済み(cases/ai-activation-catalog.md)。熊谷俊作氏(DX支援本部)は、製造業の顧客で工場に朝から晩まで張り付いて現場を観察し、見つけた要望をその場で Gemini に伝え、生成されたコードを即座にアプリに反映した。
従来なら数か月かかるような開発がその場で実現
結果、顧客の8割がアプリを活用。ただし現場からは抵抗も出ている。
「タブレット入力が二度手間になる」「管理されるようで嫌だ」
対応は、リアルタイムで修正を出し続けることと、作業員一人ひとりにヒアリングを重ねて「不安や懸念に隠れている要望」を見つけ出すこと。
コープさっぽろ / 吉本興業 — 未深掘り(確度A の一覧に記載)
- コープさっぽろ — AppSheet で現場職員が開発者に
- 吉本興業/FANY — 「野良GAS」の解消。散らかった自動化をどう整理したか
どちらも個別事例ページがあるはずだが未着手。吉本興業の「野良GAS の解消」は、LIXIL のつまずき(ブラックボックス化)の続きにあたるので、掘る価値が高い。
どの工程に効くか
この職種は、全体地図のほぼ全工程を一人で回すことになる。
| 工程 | この仕事での中身 |
|---|---|
| 業務要件定義 | 現場を見て、隠れた要望を引き出す(船井総研の型) |
| プログラミング | 作る。AI に最も任せられる工程 |
| 導入・受入れ | 使ってもらう。抵抗への対応がここ |
| 保守 | 作った人が居なくなった後どうするか |
工程が分業されていないのがこの職種の特徴で、だからこそ要件定義と受入れを飛ばして「作る」だけに集中してしまいやすい。LIXIL の申請制も船井総研のヒアリングも、飛ばしがちな前後の工程に手を入れている。
AI にどこまで任せるかの線引き
現場の人がツールを作るとき、いちばん危ないのは触ってはいけない場所を触ることになる。Claude Code の permission mode は確認の頻度を段階で切り替えられる(facts/claude-code/permission-modes.md)。
- 書き慣れた場所は
acceptEdits、触ったことのない場所はdefault - モードを緩めても、deny ルールと明示的な ask ルールはすべてのモードで適用される
さらに sandboxing は OS レベルでファイルシステムとネットワークの境界を強制する(facts/claude-code/sandboxing.md)。LIXIL がやった「複雑な機能をあらかじめ使えないようにする」を、コードを書く側でやるならこれにあたる。
この分野で分かっていないこと
- ブラックボックス化への解答が無い。 LIXIL が課題として挙げているが、どう解決したかは公開されていない
- 10,000点のアプリのうち本番に上がらなかった7,000点が何だったのかの分析が無い
- コープさっぽろ・吉本興業は未深掘り