この手順は「製品を選ばない」ことから始まる
導入相談はたいてい「どのツールがいいですか」から始まります。この手順では、製品を選ぶのは 30 日目です。
理由は単純で、選ぶ材料が最初は無いからです。何に使うか、月に何件流すか、誰が確認するか——これが決まっていないと、どの製品が合うかは決まりません。
世の中は何に使っているか(工程 1)
帝国データバンクの調査(10,312 社、AI を売る立場ではない)の数字です。
| 生成AI を活用している企業 | 34.5% |
| 用途 1 位: 文章の作成・要約 | 45.1% |
| 用途: コード生成 | 5.9% |
この図書館が扱っている 3 ツール(Claude Code / Codex / Gemini CLI)は、5.9% 側の道具です。
図書館としては不都合な数字ですが、隠す理由がありません。日本企業で実際に起きているのは、圧倒的に文章仕事の話です。
だから最初の 1 つを選ぶとき(工程 2)、エンジニアがいない組織なら、コードから入らないほうが確率が高いということになります。
1 つだけ選ぶ(工程 2)
全社の活用計画を立てないでください。選ぶのは 1 業務です。
選ぶ基準は 3 つです。
- 毎月あるもの。 年 1 回の業務で試しても、効果が分かるのが 1 年後になります
- 間違えても取り返せるもの。 顧客に出す前に自分で確認できる工程から
- 今かかっている時間が測れるもの。 工程 5 で比較する対象が要ります
LIXIL が最初にワクチン職域接種の予約アプリを 1 本作ったのは、この形です(現場の要望をアプリにする)。説明会ではなく、動くものを 1 つ。
職種別の入口はこちらです。
| 職種 | 最初の 1 つ |
|---|---|
| 事務・バックオフィス | 紙の書類をデータにする |
| 会計事務所・士業 | 証憑を仕訳にする |
| 業務改善ツールの内製 | 現場の要望をアプリにする |
| マーケティング | 顧客の声を分類して打ち手にする |
| 動画制作 | 素材を文字起こしして字幕にする |
| イラスト・デザイン | AI で作った絵を仕事で使う |
| Web・LP 制作 | LP をAIエージェントと作って公開する |
| エンジニア業 | 引き継ぎのないシステムを引き取る |
費用の上限を決める(工程 3)
詳細は 費用の上限を先に決めるにあります。30 日の範囲で押さえるのは 3 点です。
- 無料で試せる範囲を使い切る。 Gemini CLI は Google アカウントでログインすると 1 日 1,000 リクエスト
- 契約済みのプランが対象か確認する。 Google AI Plus、Workspace AI Standard / Plus はサポートされません。「契約しているから使えるはず」が通らない典型
- 見積もりは存在しない。 出典自身が「プロンプト長だけでは見積もれない」と書いています。実測しかありません
人が見る工程を決める(工程 4)
この手順書の全巻に共通する、いちばん重要な工程です。
この図書館の playbooks は、スキーマの段階で**「人が見る工程が 1 つも無い手順は書けない」**ようにしてあります。それくらい、ここが抜けた導入が多いという判断です。
決めることは 3 つです。
- どの工程で見るか(全部ではなく、どこか)
- 誰が見るか(「担当者が確認」は確認になりません)
- 何を見るか(金額なのか、日付なのか、言い回しなのか)
3 つ目が決まっていないと、確認は形だけになります。 目の前を通り過ぎるものを全部見るのは、人には無理です。
そして、確信度が高いのに間違っている件は、確認の条件を決めただけでは見つかりません。 一定割合を無作為に抜いて見る枠を作ってください(紙の書類をデータにするの工程 4)。
1 か月動かして数える(工程 5)
何を数えるかを、始める前に決めます。 後から決めると、都合のいい数字が選ばれます。
数えられるものの例です。
- 処理した件数
- 人が直した件数(ここが本体)
- かかった時間(前と比べられる形で)
- 費用
「人が直した件数」を数えていない導入報告は、成果を測っていません。 何件処理したかは、何件正しかったかを意味しません。
やめる判断も成果(工程 6)
30 日やって、合わなければやめてください。やめた記録は、次の判断に使えます。
- どの工程で詰まったか
- 何が想定と違ったか
- 別の業務なら成立しそうか
続けることを前提にすると、この記録が残りません。 そして次の人が同じところで詰まります。
この手順で分かっていないこと
- 30 日という区切りに根拠はありません。 「1 か月で判断する」という公開されたフレームワークに基づいたものではなく、この図書館が調べた事例(LIXIL の段階展開、船井総研の 50名→150名→全社を 4 か月)から逆算した目安です。確度 C を付けている工程がそれに当たります
- 事務・非開発用途のコスト実績が、どの出典にも無い。 相場として書けるのは開発者の数字だけ
- 失敗した導入の記録がほとんど公開されていない。 「やめた」事例が集まらないので、工程 6 の判断基準を書けない
- 34.5% という活用率の内訳(どの職種・規模で使われているか)を、この図書館ではまだ整理できていない